(初出:20/08/30)
割れるのか割れないのか、試せないもどかしさ・・・
2019年日本を襲った台風19号「ハギビス」による被害は、とてつもないものでした。
令和元年台風第19号の豪雨により、極めて広範囲にわたり、河川の氾濫やがけ崩れ等が発生。これにより、死者90名、行方不明者9名、住家の全半壊等4,008棟、住家浸水70,341棟の極めて甚大な被害が広範囲で発生。
出典:国土交通省 19/11/22 「令和元年台風第19号による被害等」https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/shaseishin/kasenbunkakai/shouiinkai/kikouhendou_suigai/1/pdf/11_R1T19niyoruhigai.pdf
茶色く濁った水に北陸新幹線10両が沈む空撮映像は、今でも忘れられません。
同台風では、約10万台もの車が水没するなど被害にあったといわれます(参考記事:「「ハギビス」被害、水害車両10万台の驚愕」)。
それから1年。
再び、台風の季節を迎えようとしている2020年晩夏、つぎのような報道がありました。
台風シーズンを前に、国土交通省は、水没した車の窓ガラスを割る脱出用ハンマーを車に備えるよう、自動車ディーラーなどを通じてドライバーらに呼びかけている。
出典:読売新聞ウェブサイト 20/08/20 「車が水没したら、窓ガラスは「脱出用ハンマー」で叩き割れ…国交省が車内に装備呼びかけ」 https://www.yomiuri.co.jp/national/20200820-OYT1T50252/
国交省によると、車は安全面から窓ガラスの強度が高く、素手で割るのは難しいうえ、水没すると水圧でドアが開かなくなる。このため、道路の冠水や川への転落で車から脱出できずに死亡する人が後を絶たない。昨年10月の台風19号では、犠牲者の約3割が車中で亡くなっていた。
ところが同日、べつなメディアに掲載された記事には、こうありました。
台風や豪雨で水没した車から脱出する際、ハンマーで窓ガラスを割ろうとしても、できないケースが増えているとして、国民生活センターは20日、注意を呼び掛けた。「窓ガラスが割れない場合はしばらく浸水させ、車内外の水圧差がなくなるまで待ってからドアを開けるように」と説明している。
出典:共同通信ウェブサイト 20/08/20 「水没車内、「割れない窓」に注意 合わせガラスはハンマー利かず」 https://www.47news.jp/national/5159556.html
どっちやねん、です。
車のガラスには、強化ガラスと合わせガラスがあり、合わせガラスは割れにくいとのことですが、水没しつつある車の中で”車内外の水圧差がなくなるまで待ってから”など、冷静に考えていられるか疑問です。
パニックになって、それどころじゃなくなる人も多いのでは。
たしかなのは平常時、窓ガラスが割れるのか割れないのか、試すことができないということです。
台風19号の時は、死亡者のじつに1/4が車の中で亡くなったという記事もありました(参考記事:「台風「ハギビス」被害:車で移動中に死亡が1/4」)。
車のエンジンは、わずか30cmの冠水でも停止する危険性があります(参考記事:「台風19号で冠水した道路を走行すると」)。
動かなくなった車は放置せざるをえず、駐禁車両と同じように、緊急車両の往来に支障をきたす可能性があります。
1分1秒でも早く現場に駆けつけなければならない災害時において、緊急車両の立往生は、被害の拡大に直結します。
激しい台風の中、避難に車を使うと、意図せずとも、二次災害のトリガーになってしまう危険性があるのです。
そもそも、ハンマーはあくまで最終手段。
ハンマーがあるから、万一の時も大丈夫などと安心するのではなく・・・
超大型台風の接近上陸が予想され、「ハギビス」の悪夢が頭をよぎるような場面になったら、車はできるだけ高い場所の駐車場に入れ、自身もあらかじめ安全な場所に避難するのが、命も車を守る最善策かと思われます。
新たな、水害車両10万台のうちの1台、死者90名のなかの1名にならないように・・・